Yちゃんの好み 【エッセイ】

 先日Yちゃんの誕生日だったので、いっぱしの彼氏らしくプレゼントをあげた。可愛い雑貨屋で買った白いティーポット。ポットの蓋には小さい黒猫の取っ手。側面には、Yちゃん好みの丸顔の黒猫が描かれている。これは絶対Yちゃん喜ぶはず、つーか僕が欲しい。確固たる自信のもとYちゃんに渡すと、案の定ものすごく喜んだ。
 そういえば、最近Yちゃんの好みと僕の好みがかなり一致してきたのを感じる。というか、僕がYちゃんの好みのものを、好きになるように洗脳されたといったほうが適切か。
 思えば、Yちゃんの買い物に付き合う度に、お洒落な雑貨屋に寄り、「これかわいい」などと言って、いろんな物を見せられた。初めは、「子供っぽいものをお好きで」などと斜に構えていた僕だったけど、何回も見せられるうちに可愛い……のか? という風に心変わりしていった。さらに、テレビ番組を見ているときでも、「あれかわいい」「これかわいい」と洗脳のように繰り返されるものだから、たまらない。
 そんな感じだから、次第にYちゃんが「かわいい」というものの雰囲気がわかってきた。ばかりか、それを心から愛するようになった自分に気づいて愕然とする。今では、Yちゃんに言われなくても雑貨屋に足を運ぶようになってしまった。女子大生みたいだ。
 さらに面白いことがある。Yちゃんが好きなものは、大抵僕も好きになった。ならば、僕が好きなものならYちゃんも好きかというとそうでもない。僕が可愛いものを見つけたとき、「可愛いー」と思いつつも、「これはYちゃん好きそうじゃないな」と同時に思うこともあるのだ。実際にYちゃんに聞くと、「これは好きじゃない」との答えが返ってくる。
 自分の可愛い観を保ちつつ、純粋にYちゃんの視線で可愛さのジャッジがくだせる。さすがに長く付き合ってくると違うなーと感じる。Yちゃんのプレゼントを選ぶ際には、僕ほど適任の人物っていないんじゃないかしら。
 そんな風に自惚れていると、先日。Yちゃんの家のキッチンに、可愛い猫の絵がかかれたカップがあるのを見つけた。聞くと、これまた誕生日に、親友のNちゃんにもらったとか。
 ぬぼーっとした表情を浮かべる、間抜け顔の猫を眺めながら、じーんと心打たれる僕。か、かわいすぎる。思わず、「Yちゃん。これ、僕のティーポットより可愛くね?」とYちゃんに聞くと、「ごめん。かわいい」との答えが返ってきた。正直カップを見た瞬間、僕の中のYちゃんが「負けた……!」と叫んでいた。Yちゃん好みの真髄といったプレゼントを前に、Nちゃん恐るべし、と思う。この猫ちゃんじゃしょうがない。
 明日で付き合って3周年。4年目の誕生日にはNちゃんに負けねえプレゼントを用意せねば。つーかNちゃん、僕にも誕生日プレゼントくれねえかなあ。主に猫系の何かを。

081117

 しつこい風邪もようやく治ったらしく、起きたらすっかり快調になっていた。久しぶりの電車。通勤ラッシュ。人ごみにもまれながら、マジ休みてえ。と思う。なぜ、治ってしまったんだろう……不謹慎なことを思っても後の祭り。しぶしぶ学校へ。
 研究室の先輩と会えて楽しかった。みんなで北部食堂でラーメンを食べ、これまた久しぶりにクリーンルームへ。実験だ。半導体たちよ、元気にしてたかね。
 実験を始める。しかし、どうも装置の使い勝手が悪い。何というか、記録される各系統の圧力だとかが、いつもと若干違う。何ぞ?
 先輩に聞くと、先週、僕のいない間に大規模な停電が起きたらしく、クリーンルームの装置たちは、どれも相応のダメージを受けた模様。というのも、たいがいの装置が装置内の真空度を保つために、ずっと電源が入れっぱなしになっているのだ。その電源が急に切れたとなると、不具合を生じてしまう。真空ポンプを起動しっぱなしにしている研究室の装置などは、特にダメージをうけたようだ。先生たちが集まって、深刻そうにウンウン唸っている。真空系内が油まみれになったか、ターボポンプの羽がべきべきに折れたか……
 幸い僕の愛機は、怠惰なことに電源を切ってあったので実害はなかった。ので、停電の影響は少なそう。久しぶりの起動なので、ちょっとだけ機嫌が悪いのか。人もモノも、適度に使わないとダメになるとか、森博嗣が言ってたけど、ホントだよなーとか思う。
 手間取りながらも実験。待ち時間に病気の間たまっていた日記を書く。今日は装置が不安定だったので、装置を見張りつつ、クリーンルームで書いた。自分のノートにボールペンで。最近はなんにでも文章を書く。土日のバイト中も、メモ用紙の裏にエッセイみたいなのを書いてた。いつでも思いついたときに書くってのが楽しいよな。
 実験終了。装置を立ち下げて帰るかっと。といってもこの装置の立ち下げがまためんどくさい。熱くなったところが冷えるまで待ってたり、流してたガスを処理したりと色々手順がある。めんどくせえーとか思いながら各種手続きを無心でこなす。
 終了。これで帰れると思った。ところがどっこい、ある部分の電源を切り忘れていた。そのせいで、そこの熱が冷えるまで1時間弱も待たねばならないという珍事。普段なら、ほかの作業と並行させてそこは処理してるのに、今日に限って忘れていた。時刻は夜の8時半。冷やすの1時間。そっからまた処理30分。10時帰りかよ……
 やっぱり人もモノも適度に使わなきゃだなと思った。休み明けで頭ボケボケだ。
 明日は早めに帰って小説を書こう。

081114

 朝起きたら未だ体調がすぐれず、微熱気味。原因は明らかに前日のセフィロス戦にあるのだが、もはや何も言うまい。
 昼までぶっ倒れるように寝て、起きたあと前日読み終えた「14歳のエンゲージ」を読み返す。が、面白くない。小説を二度三度読むと、新たな発見があって面白いヨーなどと人は言うが、それは間をおいて読むからいいのであって、連日にわたって再読するのは苦痛以外の何者でもない。すぐに飽きて小説を投げ捨てる。再び就寝。ぐー。
 すると、頭上に高校のときの図書貸し出しカードが落ちてきた。なぜ。今。貸し出しカード? 懐かしいカードに僕の名前が書かれているのを眺める。カードのタイトル部分には「14歳のエンゲージ」。……? ああ!?
 はっとしてさっき投げ捨てた「14歳のエンゲージ」に飛びついて、裏表紙を見やる。懐かしい「○○高校」の文字。これ……高校の図書室の本じゃん。なんと5年にわたる延滞である。図書委員の目をくぐりぬけ、しれっと本を借りパクしてる。……これがゲオの延滞だったら、偉いことになるとこだった。あぶねえ。いや、そういう問題じゃない。
 いずれにせよ、この本は返しておかないとダメなので、近日中に母校に帰しに行く予定。部活の後輩を指導に行くでもなく、世話になった先生に挨拶に行くでもなく、ただ図書の本を返しに行くためだけに5年ぶりに母校を訪れる卒業生ってどうなの? 馬鹿なの?
 もし僕が借りパクしていた五年間のうちに「14歳のエンゲージ」を読みたかった後輩がいたとしたら、本当に申し訳ない。それを思えば、この程度の辱めは受けて然るべきなのかもしれない。
 さらに図書カードを見てみると、面白いものを見つけた。貸し出し者氏名の欄。僕の名前の上に、大学一年のときに付き合ってたHさんの名前があった。何という「耳を澄ませば」。
 当然僕は、「オレ、おまえより先に図書カードに名前書くため、ずいぶん本読んだんだからな……」という甘酸っぱい思惑などなく、同じ高校だったというものの、その当時はHさんとは会ったこともなかったので、単なる偶然なのだが、こういった形でHさんの名前を再び見るとは驚きだった。
 とともに、Hさんとの甘酸っぱいどころか、どす黒い記憶の波が僕の胸を押しつぶしてきたので、やはりこの本はキチンと返却せねばならんという気持ちになった。

081113

 前日の風がどうも悪化したらしく朝起きると体がだるい。今日はM2の中間発表があるので、欠席はしたくなかったのだが、体が言うことを聞かず結局昼まで布団に磔。ルルを飲んで谷村志穂の「14歳のエンゲージ」を読みながら寝そべる。
 「14歳のエンゲージ」は90年代初期の高校生不良グループのお話。時代が時代だけに、ヤンキーの描写が面白く、男は髪にポマードを塗りたくるし、女はめちゃめちゃにスカートを長くするしで、時代だなあとシミジミした。シンナー遊びのことをアンパンと呼んでいたのも印象的。アンパンと呼ぶヤンキーって今いるのかな……知らないけど。少なくとも、僕のまわりにいるヤンキーはそんなこと言ってない気がする。
 そういえば、ファミコンソフト「ダウンタウン熱血物語」で、店屋にあんぱんが売ってたけど、あれはアンパンの隠語だったのかもしれん。くにおくん不良だし。小学生のやるゲームにアンパン。
 夜になって熱が下がった。あまりに寝すぎたせいか、目も心もぎらぎらしていた。元気が有り余っていたので、Nさんから借りた「キングダムはーツ2」をやる。レベル50でセフィロスに一騎討ちを挑むが惨敗。その後装備を変え、アビリティを変え、あらゆる戦法を試す。セフィロスの体力ゲージ残り2本まで追い詰めたときに、くだらない霧攻撃で死んだときは、気狂いのアメリカ人ゲーマーの如く長い咆哮を発した。
 そんなこんなでセフィロスに負け続けること、のべ92回。ふと、「あれ? 頭いたいなあ……」と思ったので熱を測ってみたら、37.5℃あった。恐ろしい。セフィロスじゃなくて愚か過ぎる自分自身が。

大人の病欠 [エッセイ]

[本日(11月12日)三本目の更新]
 体がだるかったので、研究室を早退した。
 いつもより大分空いた電車に乗って漫然と揺られる。ああー、鼻はずっとズクズク言ってるし、クシャミは頻繁に出るし、食欲はないわで、いよいよ風邪らしくなってきたものだな。とヌボーっと考えた。そういえば、さっきトイレに行ったとき、自分のチンコを見たら、めちゃめちゃに縮み上がってて、棒というよりは玉みたいになってた。パッと見、三つキンタマがあるみたい。チンコのサイズと体調は密接に関係する。体調が悪ければ、チンコも小さくなる。これは僕の持論だ。ついでに言えば性欲もなくなる傾向にある。「傾向」と、あくまで濁した言い方をしたのは、中学2年のときの判例から。インフルエンザだったにも関わらず、週刊宝石のヌードを見ながらオナニーした経験があるので、傾向とぼかした(ちなみに、その後僕は三日三晩タミフルもびっくりの勢いで生死をさまよった。精子だけに)。あれは、若さが病気に勝った唯一の例外だったと思う。……話がそれた、とにかく体調が悪くて早退したってこと。
 そういえば小中高と、早退するときは嬉しかったものだ。らき☆すたの主人公、「こなた」も、熱が出たときは「イエス!」とか言ってガッツポーズしてたし、ちびまる子ちゃんの「まる子」も、熱が出たときは大っぴらに休めるからいいねえ、ひひひ。とか言ってた気がする。かなり気持ちが分かる。
 誰のお咎めもなしに一日中寝てられるし、ちょっとセキをすればみんな優しくしてくれる感じ。あと、親たちがいない間に、こっそりプレステなんかをやるのも楽しかった。平日の昼の1時にやるプレステは、格別の味なんだよな。そうやってる内に、風邪が長引くのも、休みが増えたみたいで嬉しくて、そんなんだから生死の境をさまようんだろうと思う。今は反省してる。
 で、今日。家に帰って体温を測ってみたら案の定熱があった。そのときに、思わず「ああー……研究が遅れる」と素直に感じたとき、「あ、俺。大人になってる」と思った。
 そうだ。大人の病欠とは本来こういうことだよな。ドラえもんでも、パパが風邪ひいたとき、「会社が……会社が……」とフラフラになりながらも会社に行こうとするシーンがあった。大人ってーのは、やらねばならんという責任感でもって、体調不良をおしてでも何かをなそうとするんだよな。そういう感覚が、今の今まで僕には欠如していた。だから、極めて自然に自分の研究を優先しようとする気持ちと、体調不良を嘆く気持ちが出たことに、驚いたのである。休めてラッキーなどという僕はもういない。ちょっとは大人になったな、僕。
 でも、唯一残念なのは、このように熱でフラフラだというのにブログを書いてる点だ(しかも、本日三本目)。大人はそんなことせず、まっすぐ病院行って、クスリのんですみやかに寝るもんだ。やっぱりまだ僕は子供? 大人? どうでもいいよ。で、すぐどうでもいいよとうっちゃっちゃうやつが、大抵子供だったりするんだよな。