修学旅行の思い出 By Y平

小学生のときだ。この日は修学旅行だ。
昼間の出来事なんつーのはだいたい割愛する。一つ挙げとくと、
みんなで地引網とかやった気がする。
先生の「ゆっくり網を引けえ」っていう怒号をバックに、
めちゃめちゃ早く引いてふざけるガキ共。いかに早く引くかの競争だぜ!
みたいな暗黙のノリの中、エスカレートする早引き。
後半はみんな統率された動きになってきて、
「やっべ今ウチのクラスの網、超はええ。」みたいに誇りを持ち始めていた。
ところがどっこい、引いてるうちにどこからともなく
「早く引くと魚が獲れないらしい」みたいな流言が飛び始める。
「え? やべえんじゃね、ウチのクラス」途端に不安の色に染まる我がクラス。
しばらく網を引き引きすると、なるほど、少ない。どう見ても魚が少ない。
ざわめくクラス。口数の少なくなるクラス。そら見たことかと得意顔の教師。
つか最初に早く引き始めたやつだれよ? 加藤じゃね。
ああ、加藤だよ。加藤が悪い、加藤が悪い。戦犯探しの始まりです。
これはどこの世界でも同じです。悲しい。
青ざめる悪ガキ加藤を尻目に更に網を引き引き。なんのこたあない。
網の中心部にはどう見ても食べきれないほどの魚群また魚群。
大漁だー。誰かがお決まりの雄たけびを上げる。
やっべ、これ鯛じゃね? 鯛じゃね? それはセイゴです。みんな大はしゃぎ。
はしゃぎすぎて海で転ぶ加藤。びしょ濡れ加藤。それを見て爆笑するクラス。
さっきまでのことは忘れた、小学生だから忘れた。
そうしてクラス一同喜色満面、楽しかった修学旅行。
作文のシメはこれに限ります。
「まぐろがとれておいしかったです」
まぐろは獲れてません。
これらの話は大体どうでもいい。これは子供はバカで、
それでいて純真でかわいいものってことを言いたいだけの枕詞に過ぎません。
そう子供は純真なのです。
「セックスがしてえ」
修学旅行の夜。唐突に有田がこう切り出した。僕らは一同に同意した。
そのころ僕らは小学六年生だったが、思想はすでに大人だと信じきっていた。
まだ陰毛も生えてない僕らだけれど、大事なのは心がけだ。
したいと思う心、僕らは知っていた。
そして運のいいことに、隣の部屋には僕らが懇意にしている女子グループがいた。
そのグループはクラスの可愛い子を集めたクラス代表チームみたいなキャピグループ。
そして小6男子の好みは、得てして顔のみに依存する。
僕らが全て、となりのアイドルグループの中に、
意中の者を見出していたのも無理からぬ話である。
「やっぱ大坪がいいよ」
「山口はないわ」
「大坪、大坪」
「速水が好きだー」
そんな修学旅行の夜らしいカミングアウトがなされる中、
冒頭の有田の台詞が飛び出したのである。
「セックスがしたい」
よくぞ言ってくれた。皆がその単語を出したくて出したくて仕方がなかった中、
英雄有田が突破口を開いた。
「で、誰と?」
「当然、速水」
色めき立つ速水派。速水派の面々としては心穏やかではないが、
それ以上に速水とセックスということへの好奇心が勝る。
セックスっつーことはあれだべ? 裸だべ? 速水が裸だべ? うひょー。
幸い有田は速水と今いい感じだ。意外と現実性がある。
速見派の抵抗心は本能の前に砕けた。裸こっそり見ちゃえ。みたいなね。
やっちゃえ有田! やっちゃえ有田! 皆が応援した。
大坪派の僕も当然の如く応援した。
「やってくる」
颯爽と出陣していく有田。頼りになる背中だった。
部屋のベランダへ赴くと、隣の部屋へ呼びかけ、速水を呼び出す。
速水と有田。隣のベランダとの薄壁越しに、月を見つつ語らう二人。
ベランダの遥か下では、いかつい兄ちゃんがスケボーの練習をしている。
ゴーッ、ゴーッ。ガチャン。
静かな夜にスケボーの音と、二人の話し声だけが響いている。
ベランダの窓に張り付いて有田の行く末を見守る僕以下4人のスケベ。
山木だけは布団の上で「なんか屁が止まらねーんだけど。ぷっ」だなんて、
毎分10回のペースで屁をこいている。空気読め。
ひいき目なしで、有田と速水はいい感じに見えた。
これはホントにやれるんではないか? そんな希望が僕らの空気を弾ませる。
普段おちゃらけている有田が、ここへきて真面目な顔つきになっているのも、
ゴールが近いことを物語っている。さあ、ここからどうアプローチを見せるのか?
有田の腕の見せ所だ。一同の緊張感は一気に高まった。
「なんかさー、やりたいねー」
もう終わりだよ。なにもかも。
有田は阿呆である。このとき僕達は、史上最低の誘い方を見た。
ムードもへったくれもあったもんじゃない。好きと告白するでもない。
いきなりこれである。
話の詳細は覚えていないが、ノリ的には「刺身おいしかったよねー」
みたいな話の最中に、いきなりこの言葉を出したのだった。
僕達は色めき立った。失敗確定の有田の不幸を喜んだのか?
速水派の中にはそう思う者もいたであろう。しかしそうではない。
ミニスカートを履いては僕達を前のめりにする速水が。きつそうに見えて優しい速水が。
なにより顔がいい速水が。アホな有田の言葉にどう返してくるか。
そこに期待が集まったのである。セクハラオヤジの精神みたいな感じ。
有田はもうどうでもいい。実際僕達4人は一斉に前のめりになったような気がします。
悠久とも思われる時が流れた……否。即座に返答は返って来た。
「うん、やりたいねー」
だれもが面食らった。小島は窓から吹っ飛ばされた。
大島は前のめり角がアップし、畳にめり込んだ。
村主は恍惚とした表情になった(おそらく射精をしたのだろう)。
山木は屁をこいた(もう山木は死ね)。
しかしそれ以上に有田は死んだ。精神的に死んだ。
口をパクパクさせながらこちらを見やる有田。その表情はすでに速水に
魂を持っていかれた顔である。しかし当の有田は前のめりにもならない。
現実をまだ受け止めきれていないようだ。
しかしここで止まれば後はない。小学生は複雑なのだ。
ちょっとしたタイミングを逃しただけで、二年間無視される。
後に僕はそのことを大坪さんにまざまざと教わることになるのですが、
それはまた別の話(死にたかったよー)。
有田は混乱した頭をどうにか落ち着け、あせあせと話した。
「ま、マジで! い、い、いいの?」
「楽しそうだよねー」
淫乱。小6にして「セックス」→「楽しそう」と帰結できる、
そのポテンシャルに震えた。それはドラゴンボールで、
悟天がいきなり「もうなれるよ」とか言って
スーパーサイヤ人になっちゃったときの衝撃と似ている。
マジでー。僕らは戦慄した。無理もない。
まだエロ本すら読んだことがないのだ。
みんなチンコに血が流れすぎて死んだ。
「で、で、でも! どうやって? どこで?」
有田の問いに、僕は瞬時になんとかなると思った。押入れならあるいは。
まず速水さんをこちらへひきこむ。僕らは寝たフリをする。それで……
「帰ったらやってみようかー。持ってる? 有田?」
バカ、速水! 淫乱野郎! 帰ったらじゃおせーんだよ淫売が!
ここでやるからこその淫乱だろうが! 淫乱するなら最後まで淫乱しとおせやダボが!
怒った。それは古田君にファイナルファンタジー6のデータを消されたときの怒り、
それに勝るとも劣らない怒りであった。
そして有田の棒もここへきて憤懣やるかたない御様子。
ようやく御珍宝様も現実を受け入れたようだ。
「いや……! ここで! 俺の部屋で!」
そう、そうだ有田。僕らの聖域ならやれる。ベランダの壁なんて
簡単に乗り越えられる。俺たちは寝たフリをする、それでいい。
山木は殺せばいい。押入れだ! 有田、押入れだ!
窓越しに必死に「押入れなら可」サインを送り続ける四人。
有田ももうやる気です。
ついに見れる。親以外のあれを見れる。速水のキレイであろう裸体が、
幼き頃のトラウマを消し去ってくれる……!
「は? スケボーの話じゃないの?」
ガチャン。ガチャン。スケボー音がより一層大きくなるのを感じた。
「あ!? は!? あ! ああ……」
有田がポツリとつぶやいた。
「やりたいね(セックス)」
「ね、やりたいね(スケボー)」
この場を一番制していたのは他でもない山木であった。
山木の屁の音が部屋に響いた。
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修学旅行の思い出 By Y平」への10件のフィードバック

  1. SECRET: 0
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    山本くんに何度も笑いましたw
    成人式の記事もむっちゃおもしろかったです[絵文字:v-10]w
    更新待ってます~^^

  2. SECRET: 0
    PASS: 3e0a43b81a75b936a1e9b5fb4628dd46
    もう枕から面白くて、にやにやしながら読んでましたw
    いやー面白いなあ。
    個人的に一番のツボは、速水が大人気の中、
    ささやかに大坪を押してたY平さんでしたw
    その辺の話も掘り下げて聴きたいなあー
    以上、小六のときはセックスの存在も知らなかったso-naでしたw

  3. SECRET: 0
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    分かる。
    キャピグループにはなぜか大抵1人、山口みたいな子がw

  4. SECRET: 0
    PASS: ba547eab07271bfa4c72a95b72308a97
    いや、素直に面白いです。
    笑えました。
    マジで笑えました。
    っていう当たり前のことは置いておいて。
    やっぱ私も文章を書くので、Y平さんの文章中の色んなコントラストを研究させてもらいながら読み進めましたが、やっぱさすがです。
    どくりんごの返信コメを出かける前に書かせていただきましたが、
    “下ネタは遠慮したいのが本音です^^;”
    なんて、知った口きいてごめんなさい><
    ってか、むしろ、素敵な下ネタをありがとです♪
    訪問まで間が空いちゃいましたが、これからも読ませていただきますね。
    ひとまず酔ったので寝ます。
    おやすみなさい。

  5. SECRET: 0
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    めちゃウケました(笑)
    有田の誘い方、最低すぎ(笑)

  6. SECRET: 0
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    俺、多分山木と意気投合できます。
    小学校の修学旅行の夜・・・枕投げしてました。
    教師含めて本格的に枕投げしてました。
    あと、部屋真っ暗にして隠れて、誰が誰か当てるゲームもしてました。
    せくすのことは微塵も考えてない子供らしい子供でした。
    今でもその心は忘れてない純真な青年、GUMOL。
    せくすとたくすが似ててニヤニヤなんかしてません。
    ごめん・・・taksくん。

  7. SECRET: 0
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    有田が誰かくれーしかわからねwww
    俺は出てきてるか?@@
    でも確かにあんときはちん○に血が流れすぎて痛かったわwwww

  8. SECRET: 0
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    まぬぅさん>
    せっかく山木って仮名にしてたのに、山本って本名出しちゃだめだよw
    なんにせよ褒められてうれしいっす。
    so-naさん>
    大坪さん可愛かったよ。なんつーか僕必死だったもん。
    仲はいいと思ったんだけど錯角でした。
    taks君>
    分かってるなあ兄さん。僕は山口さんでも全然あり。あの娘Sっぽかったし。タクロスが充実してればそれだけでいいよね。
    毒りんご。さん>
    ありゃー、褒められてかなり嬉しいんすけどw コントラストとか、そんなん特に気にしてないのに! もっと軽く、だってこれ雑記ですし(笑)
    物語とか、ちゃんと真剣に一つのものが書けるようになりたいっす。
    ぶんちゃさん>
    いや、最高だったよ。だって小学生だし、そんぐらいしか誘い方ないっすってーw
    僕が有田君でもそう言った。そして振られるんでしょうね。
    ぐ~もる君>
    タクロスのこと考えないかなあ、小6て。まあ誰か一人がませてたから、あんな話題になったんだろうね。すべて有田君のせいだわ。
    枕投げとか逆にしてねーもん。するのか……枕投げ。
    ティーラオ>
    うお! 当事者きたw 出てるよちゃんと。苗字に何かを残しといた。
    つか今思ったら、村主は別の班だったかもしれん。やべえどっちでもいいw

  9. SECRET: 0
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    よかった屁の人じゃなくて(‘-‘*)

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