勧誘 By Y平

大学のな、カツ丼がな、うまいのよ。だもんでその日もカツ丼食ってた。
441円。割り箸で、かきこむようにして食う。美味。うちのカツ丼とは段違いっす。
そんな至福のタイムを送ってたときだ。颯爽と隣の席に腰を下ろす男性二人組。
「すいませーん」
だまれ。
「あのー、お食事中すいませーん」
カツ丼食いたい。
「はいはい? 何でしょう?」
僕は嫌悪感を顔に出さずに答える。
「あのですねー、僕達のゼミで「いじめ自殺について」のセミナーをやるんですけどお」
いじめ自殺、最近のもっぱらのトレンドですね。社会問題を論じるセミナー、
就活にも役立つんじゃないかな? 知らんけど。
「今、いじめ自殺ってひどいじゃないですか? あっちこっちで自殺自殺。
 ところで、今日本で年間どれだけの人が自殺してるか知ってますか?」
あー、どーでもいい……と思わせるのは、僕の目の前にカツ丼があるが故です。
誰が悪い、とかじゃない。カツ丼が悪い。
「あー……ちょっとぉ、分かんないっすねえ」
バカっぽく答える僕に対し、一瞬浮かぶ、蔑みの目。
「実はですね~、年間3万5千人も死んでるんですねー」
「はあ、そんなにですかあ」
バカを相手にするのは楽だぜ。男の目は語っている。
「それじゃあ、交通事故で死ぬ人は一体いくらだと思います?」
あー、しらね。つかカツ丼食っていい? とは言えないのが
日本人である僕の長所であり短所。
「ああ~、それもちょっと分からないかもですう~」
バカを演じるのは楽です。男はほんの一瞬ニヤリとすると、
更に論調を高めていく。
「なんと7千人。実は自殺者って、交通事故で死ぬ人より多いんですねー。」
「まじっすかー」
カツ丼食いたい。もういいや、食っちゃえ。バクバク。
「(え? こいつカツ丼食い始めたよ。)んでですねー、
 こんなに自殺が起こるのはあなたは何でだと思いますか?」
「クチャクチャ……それは、もぐもぐ、分からない、
 クッチャクッチャ、ですねえ、むぐ……いろいろあるし」
「(つかどうでもいいけどネギくせえー)私はやはり、
 生きる目的がないから。それに尽きると思います。」
「クチャクチャ、ですねー」
「あなたの身近な人が、家族とか、友達とか、恋人とかが!(ここは強調だぜ!)
 生きる目的がないっていう理由で、自殺しようとしたら。
 あなたはどうしますか? 止められますか?」
「もぐもぐ、まあやめろーって言うしかないっすよー」
「ですよね。あまり分からないですよね(こいつバカじゃね?)。
 そこでですね、我々は、その生き方、人生においての
 生きる目的を考えたいと思いまして……」
まあ、じっと我慢してバカっぽく振舞ってきたんだけども、
ここへ来て笑いをこらえるのが大変でした。
ここらでちょっとだけ、ちょっとだけ反撃してもいいんじゃないかな?
「え? いじめ自殺がテーマじゃなくて、生きる目的がテーマなんすか?」
いじめ自殺を論じるんだし、どーせ自殺者あんなに多いのに、いじめによる自殺は0人なんだぜ?
っていう腐るほど聞いてきた論調に持っていくのかと思いきや、そこからいきなり180°転回。
生きる目的にまで持ってける豪胆さに、思わず笑いが……
「え? いや、いや? その、いじめ自殺を通してですね、生き方をね……」
へえ、いじめ自殺と生きる目的がなくてする自殺を混同しちゃうのかー。それっていいんだねー。
いままで学校側からいじめによる自殺の報告が0なのは、こういうカラクリですか。
「自殺の原因は何でしょうか!? 校長! 校長! パシャパシャ!」
「あの子は生きる目的がないと嘆いておりまして、おそらくそれが原因で……」
「なるほどー」無理だー。
「えっと……んでですね、僕達それについてセミナーを開くんですけど、
 そういう分野って興味ありますか?」
「そういう分野って、どういう分野ですか? いじめ自殺についてか、
 生きる目的がなくてする自殺についてか、はたまた単に生きる目的についてか」
「……えっと、ですねえ」
「すんません、全然興味ありません。すんませんすんません。」
「あ、はい……お食事中失礼しました~」
「はいー」
……すげえ気持ちいい。ちょうどこのときはテスト期間だったもので、
いい気分転換になりました。
がんばって一人でもセミナーに来てくれるといいのになー(乾いた口調)。
と、ここまでなら単なる、「僕ってしっかりしてるんだぜ?」自慢でしかないのですが、
これで終わってたらガックリです。まだ続く。
どうみても論点がすり返られてる二人を追い返すと、僕は食堂を出、
外のベンチでテスト勉強にいそしみます。冬とは思えないうららかな陽気。
そこで勉強する俺はかっこいい。
僕がそう思ったか思わなかったかはあなたの想像力にゆだねるとしましょう。
そんな知的な僕が勉強してたら、おもむろにベンチに近づいてくるオヤジあり。
満面の嘘笑顔を塗りたくった顔でクリアファイル片手に近づいてくる。
接近に気づき教科書で顔を隠す僕。寄ってくるオヤジ。目をあわせたらやられる。
伏し目度アップ僕。寄ってくるオヤジ。やめろ。やめろ。
「すいませーん、私サークルの活動でぇ、アンケートを行っておりましてえ」
あちゃー、またですよ。そんなに僕は話しかけやすいんでしょうか?
(この場合の話しかけやすさはむしろマイナスイメージを孕んでいる)
「2、3質問にお答えいただけませんかあ?」
うぜ。邪魔。テスト勉強してるの分かるだろ。
「ああ……はいはい」
目が笑ってない僕に気づいてんのか気づいてないのか……
オヤジはニコニコ顔を浮かべながら、僕の横に座る(妙に近い!)。
そしてクリアファイルから、アンケート用紙を取り出し、僕に見せてくる。
「まずですね、最初の質問はこちらです」
え~っと何々?
<日本では、年間どれだけの人が自殺しているでしょうか?>
これには笑いを禁じえなかった、いや、ぶっちゃけ笑った。ブホッ! て笑ってしまった。
なんでここで笑うのん? だなんて一瞬キレ顔を浮かべるオヤジ。いや、待てオヤジよ。
必死に笑いをこらえる僕。これはまさか……
「えと、えっとですねえ……ブフ! 3万……3万5千人ですよ……ね?」
「おお~、あなたよく知ってるじゃないですかあ! そんじゃあこちらはどうですか?」
オヤジがアンケート用紙をめくる。そこに出てきたのは
<年間の交通事故死の人数は?>
噴出してしまった。思わずゴフゥって、めっちゃ笑ってしまった。知らないはずはない。
知ってるからちゃんとお答えしなきゃ。それが最低限の礼儀……ブホッ!! 死ぬ!
「ぶふっ! はは、えっとっすねえ。7千人でしたっけ?」
「正解だあ! いやあ、あなたすごいですねえ。ちゃんと社会のこと分かってらっしゃる!
 ちなみに今何年生なんですか?」
「はあ……グフ……三年生です」
「さすが! 三年生ともなれば就職とか気にしだしますものねえ。いや、立派だ!」
アンケートなのに回答をメモしてないとか、
お前いくつまでサークルやる気なんだよとか色々突っ込みどころはあるけど、なにより……
「あ、そういえば、サークルのアンケートって言ってましたけど、
 一体何のサークルなんですかあ?」
「哲学サークルですぅ」
ゼミだったはずでは?
やあ、笑えた。このオヤジの滑稽さといったらなかった。
僕は何もこういう人たち全般が怪しいなあだなんて微塵も思っちゃいない。
論理がしっかりしていて、自分の興味をそそり、素性の明らかな団体なら
至極真面目に接したのだけれど、
ゼミだったりサークルだったり(それにしても哲学サークルとはうまいことを言う)、
いじめ自殺だったり生き方だったりホイホイ変わっちゃうような団体さん相手に
真面目になれって、それは無理な話じゃないすか?
「あのー、ぶっちゃけさっきも同じことを聞かれたんすけど……」
つかゼミだったんですけど。とは言っちゃいけないような気がしたので言わなかった。
もう少しこの人たちの話を聞きたい。どんな展開を見せるのか知りたい。僕は我慢した。
「ああ~! じゃあちょうどいいです! 早速本題に入りましょうかね!」
「じゃあちょうどいい!」ってどんなご病気の持ち主だよ、
僕の話聞いてた? と思ったけど、ここも我慢して聞く。
聞きたいんだ。あなたの情熱を感じたい。すぐ突っぱねるなんて勿体無い! 
「君もね、就職して、会社の歯車として働くわけになるんですがね。
 どうです? 来る日も来る日も仕事仕事。そんな生活を想像してみて?」
歯車って決め付けられた! びびる! この人すごい!
「いやですよねえ。なんの目的もなく生きる……
 そんな無為な生活がこれからあなたを待っているわけですよ。どうです?」
また決め付けられた! もう駄目だ! おおおおお!
待て……Be cool 俺。もっと引き付けろ!
「やはり生きる目的! これがないとこれからやっていけないわけです」
もっと! もっとだ! カモナップ!
「あなたはこれからの人生、生きる目的も何もなく、来る日も来る日も無為な生活を……」
ああああああああああおおおおおおおおおううううううう! も、だめだ
「別にそれでいいです。無為でいいです。つか大半の人がそうなんじゃないですかね?
そして実はあなたも。でも、そこを気にするのは気になる人だけであって、
僕は気にならないからいいです。無為っていうか、僕にとって目下、
一番大事なのは明日のテストです。分かりますよね? 意味」
オヤジは馬鹿そうな僕からそれを聞くと、なんかもう誰が見ても分かるくらいキレて帰っていった。
露骨にキレて帰っていくオヤジを見て、
やっぱりオヤジも生きる目的が見つかってないんだろうな、
だなんて思うのは感傷だったろうか。あはー
(今回の記事には特定の宗教・団体を誹謗中傷する意図は一切含まれていません)
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勧誘 By Y平」への14件のフィードバック

  1. SECRET: 0
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    Y平さんカコイイ
    僕もそういう対応したいなあ
    テストはいかがでしたか?

  2. SECRET: 0
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    久々に読みました。
    ちょ、面白いねww

  3. SECRET: 0
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    楽しそうですね。 おいらもやってみたいよ~

  4. SECRET: 0
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    すっげー想像できるWWW
    Y平さん最高!

  5. SECRET: 0
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    その対応の仕方、素敵ですっ!!
    私は最初からあからさまに嫌な顔することしか出来ないので
    なかなか高度だなーーって思いました[絵文字:e-420]
    結構人が少ない日の大学のカフェとか行くと
    そういう事態に陥るから、若干恐ろしく思います[絵文字:e-330]
    ちなみに、マリカーは、あんま得意じゃないのですが
    スーパーマリオRPGっていうのを楽しんでやってました、受験中[絵文字:e-291]笑

  6. SECRET: 0
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    初めて読みました。惚れました。

  7. SECRET: 0
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    その怪しいサークルうちの大学(大阪)でも勧誘してます!!!私んトコに出没する人らと勧誘のし方があまりにも同じなんで笑けました!!『生きる目的云々…』って言われたら逃げろ!って、友達みんな知ってる位有名なヤツらです。

  8. SECRET: 0
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    お初です。
    なんか俺は似たような事を言われながら◯蓮とかいう団体からファンブックみたいなの貰いましたよ。なかなか電波でした

  9. SECRET: 0
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    肉欲企画さんから来ました!
    なんか淡々としていて頭の良さを感じます、でいて面白いし!ブックマークしますね!

  10. SECRET: 0
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    Y平くんもやっちゃいますねw
    そういうの家にも来るよね。
    あ、なんか前話した気がする。
    俺はすぐ突っぱねる性格。相手しているのが時間の無駄。言いたいこと言わせてもらってます。
    でも記事読んで、そういうのもアリやな~と思いました。

  11. SECRET: 1
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    非公開でごめんなさい。
    Y平さん!はじめまして。まだ高校生じゃないのに名大志望の者です。
    できれば相互リンクを頼みたいのでございます。
    いきなりですいません><
    バカマラソンにwktkしてます。ホントに急でごめんなさい

  12. SECRET: 0
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    ついに・・・肉さんとY平さんがついに交わった・・・!!
    やべぇ、興奮して濡れてきた。

  13. SECRET: 0
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    so-naさん>
    かっこよくはないっすね(苦笑) テストは普通でした。ほんと普通。
    普通の大学生。
    ゆずこさん>
    おお、面白かった? うれしいねえ
    ナウいさん>
    もうやりたくはないっすけどね……めんどいよ。
    ぷれみあむさん>
    最高はいいすぎっすよ!
    毒りんご。さん>
    カツ丼かよ!
    ゆぅなさん>
    あの辺メッカだものね。一人でおるとギャンギャンひっかかりますよ。
    まあ僕がしょぼそうに見えるからだろうけど……あからさまに嫌な顔で正解っすよ。
    ayさん>
    マニアックな好みをおもちで……
    だーちゃんさん>
    はあ~、全国的に展開してるのか。意外だな。ということはあれでひっかかる人がいるってことですよね。でもあれにひっかかるのは、アホなんじゃなくて人が良すぎるから引っかかるという感じがします。そう思うと哀れや
    ゆとりさん>
    お初です。電波でも入信する人がいると思うとやですね。ゆとりさんがひっかからなくてよかった。つかファンブック欲しい
    受験生♀さん>
    僕すごい頭よくないですよ。ブックマーク感謝っす
    GUMOLくん>
    お兄さんはそういうの得意そうじゃない? こんどやってみてよw
    話きかせてよ!
    taksくん>
    いや……肉欲さんは恐れ多いよ。かなり恐縮するわ。

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