バカマラソン3rd ~3日目前半~

「岐阜県 郡上八幡 ~ 白鳥高原」
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3日目。温泉宿で鋭気を養った僕たちは、深夜0時に郡上八幡を出発した。
残り100キロということを考慮に入れた、決死の強行軍だ。
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気温は氷点下2℃。野宿は許されない気温の中、郡上八幡の山をかけるのは全身真っ黒な二人。
車にはねられかねないので、一応、リュックの後ろに黄色いタオルをくくりつけておいた。
これで後方の車が僕らを見落とす確率が減る。
走り始めると、やはり温泉が相当効いたのか、足がものすごく軽い。
これで残り100キロ一気に駆け抜けられる……! と思い、走りのピッチをあげたら、
急に膝の骨がびりりと痛んだので諦めた。
たいしも「足首に爆弾できた」などと、怖いこと言ってる。
所詮は温泉、筋肉痛は直せても、数時間でいたんだ骨を直すのは無理だったようだ。
しかしここで気づいたことがある。僕らの走りは、
早歩きの速度とあまり大差がないと言うことだ。
走りだと時速6~7キロ、しかし早歩きでも時速5.5キロほどは出ていることが判明した。
「ほら、歩きって超早いじゃん!」
「うわ、マジ! 膝も全然痛まないし!」
「歩きすげえ!」
深夜の郡上八幡で「歩きすげえ! 歩きすげえ!」とはしゃぐ僕達は
相当終わってたのだろうけど、僕達にはその発見がアメリカ大陸発見を
思わせるような大発見であった。
なのでこっからは膝の負担が少ない早歩きで行くことにした。
バカマラソンではなくバカ競歩になってしまった。
深夜の山道をもくもくと歩いていく。近くを川が流れているのか、
水の音がサワサワと空間を満たす。二人は勢いよく、道中を進んでいく。
歩きといってもわりと早い。スタミナの消費も走りに比べれば段違いに少ない。
「でも疲れることは疲れるね」
歩こうが走ろうが疲れるもんは疲れる。やはりバカ競歩と言えど甘くはない。
しばらく歩いていると、信号が見えてきた。そこで信号待ちをしている軽自動車が一台、
ドライバーは雰囲気的に女性っぽい。
まあ僕らはそんなこと気にも留めず、その車の横を通り過ぎようとした。したら、
ガチャ!
車から鍵を閉める音がしたのな。いや、思わずその車を振り返った。
まあ言いたいことは分かるよ。「不審者にレイプされたら大変!」ってなもんだろうよ。
いや、あの、あ? なあ、ふざけんなよねーちゃんよ。
こちとら100キロ近く徒歩できとんじゃ。
縁石をまたぐのですら激痛が走るような体になっとる。そんな元気あるかボケェ。
まあ僕がドライバーだったとしても同じことするけど、それほど僕らは不審者だった。
なんか切なかった。
ライトアップされた郡上八幡城が山中に浮かんでいるのを横目に、
さらにグングン歩いた。
青看板が「白鳥まであと23キロ」だなんて嫌な情報をいちいち報告してくるのだけれど、
距離について言及すると疲れるので、二人はだまって歩いた。
明け方にさしかかったあたりで、サークルKが見えてきた。
出発してから5時間歩き、ようやく白鳥近くまで来たようだ。
しかしそれと同時に僕らの疲労はわりと尋常じゃないくらいになっており、
一度サークルKにて大休憩をとろうということになった。
まさにそのときである。
「ヒグっつ」
たいしが悲鳴をあげた。たいしの足首の爆弾がついに爆発したのだ。
「やあ~……これは不味いよ、はは。」
笑ってはいるが、たいしの爆弾傷が尋常ではないことは分かっていた。
左足をひきずりつつ歩くたいしを見て、
「白川まで行く」という希望はほとんどなくなったように思えた。
サークルKで休んだところで、たいしの爆弾傷が癒えることはなかった。
たいしは左足をひきずりながらバヒンバヒンとか音がなりそうな歩き方で歩いた。
相当痛いのか、妙な歌まで歌いだした。
「リズムに乗ればあ~~痛くない、痛くない♪ ズンズンズンズンスンスンスン♪」
なんか歌い方が気持ち悪くてかなり笑えた。しかし、それは真理でもあった。
僕らの足は、歩き始めこそ痛いものの、
強引に歩き続けていると段々感覚が麻痺してきて、痛みが軽減されていく。
リズムに乗ればあとは無感。ひたすら痛めつけて、足をマヒさせる。
それが後半戦を歩く上で必要なテクニックだった。
「リズムに乗れば……痛くない♪ リズム、スンスン♪」
たいしは相変わらず神尾みたいなこと言いながら歩き続けた。
正直頑張ってたと思う。でも僕はそんなたいしに向かって
「岐阜バスがあるから、もう帰れよ。あとは一人で行くから」
なんてわりと本気で言っちゃったことを今更ながら後悔している。
しかしたいしは歩いた。
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そしてついに、白川郷68キロという青看板を発見。
ここへきてやっと白川という地名を見ることができた。
これで俄然僕らの士気はあがった。つーかもう既に着いた気でいた。
確かこの辺で僕は「白川着いたら泣く」みたいな宣言を出してたと思う。
あと68キロもあんのに。
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夜が完全に明けると、脇の田んぼに雪が見えた。
むしろ今まで雪がなかったことが不思議なくらいだが、
更に道が困難になってくることは間違いなかった。あと68キロもあんのに。
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山道に差し掛かるのにそれほど時間はかからなかった。
山道から見る風景はまさに絶景で、
ラストサムライに出てきた村落を思い出させるような景色であった。
むしろ白川行かなくてもその辺に合掌造りあんじゃねーかなってぐらいの風情。
ここで合掌造りの写真撮れれば帰れるんだけど……
などと卑怯くさいことを考えたが、やはり合掌造りはなかった。
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行けども行けども坂道。遠くを見通す限り延々と坂道が続く感覚、分かるだろうか。
その絶望具合が。
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写真は「ダイナランドスキー場まで3キロ」の看板。
スキー場があるところまで来てしまった。
そうこうしていると、2キロ先に「大日岳」という道の駅があるとの
青看板情報をゲット。2キロ先、今の僕らにとっては
「ちょっと近くのコンビニ行って来るわ」ぐらいの近さである。
もう少しだ。休める。
 
しかし行けども行けども道の駅は見えてこない。
「ひるがの高原スキー場 あと7キロ」行ったことのあるスキー場の看板が見えてきた。
更に登る。道の駅はまだか。坂道つらい。
通りかかるスキー客の車が僕ら見てびっくりしてる。うぜえ。更に登る登る。
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「ひるがの高原スキー場 あと4キロ」の看板。おい、どういうことだ。
ひるがの高原まで3キロ歩いたはずなのに、2キロ先だったはずの道の駅は見えて来ない。
どういうことだ。適当に距離はかったのか、カス。
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ノリ的には4キロ歩いたところで、2キロ先だったはずの道の駅「大日岳」に到着した。
あそこの距離測ったやつは、直線距離とかで測ったに違いない。
道の駅で二人はそばをモリモリ食べると、少量の食料を買い込み、外のベンチで休んだ。
日差しが暖かかったので、そのまま二人してベンチの上でしばし寝るに徹した。
たいしは寝れなかったらしいが、僕は熟睡した。1時間ほどのお昼寝タイム。
まさかスキー場付近で昼寝することになろうとは思いもよらなかった。
三日目前半: 走行距離 50キロくらい 白川郷まで残り 50キロくらい
地図(クリックで拡大)↓
3日目前半地図