札幌市中央区 蔵の湯のお好み焼き

校舎の窓ガラス壊してまわる。盗んだバイクで走り出す。人はダメだと分かっているものに無性にひかれる期間がある。束縛を嫌って希望のない明日を突拍子もない行動で模索する。そういうものに憧れる。男子はそうでなくてはいけない。
病院の診察を終え、車に乗り込む。昼の2時半。お腹はいい感じに出来上がっていた。昼飯を食べる時間を逃し、空腹で途方に暮れている。今なら何を食べてもうまそうだ。
しかし、シチュエーションにはこだわりたい。いわゆる確実に美味しい店などには入りたくない。スタバで割高なサンドウィッチを食べるのは消費社会の負け犬だ。チープで、情緒があって、うまくはないが不味くはない。そんな絶妙な店がいい。今の俺の腹は完全に尾崎になっていた。敷かれたレールには乗りたくない。けれども大っぴらに羽目も外したくない。小さな反抗心。思春期のように複雑な俺の腹を満たしてくれる店ってこの辺にはもうないのかな。
ふと、近くに行きつけの温泉があったことを思い出す。温泉には座敷の休憩所がある。そこには「チキンキムチバーガー」という謎の食べ合わせのメニューがあったはずだ。
チキンとキムチ。何となく語感は似ているけれどもこれが絶妙に合わない。いっしょに食べているはずなのにチキンとキムチはそれぞれ別の個性を発揮してくる。ダメな雛壇芸人のように俺が俺がと主張し、番組をめちゃくちゃにする。当然美味しくはない。むしろ別々に食べたらおいしくなるはずなのにとガックリくる。この絶妙なミスマッチ感。腹の中の尾崎が「それだ!」と叫ぶ。

ということで「蔵の湯」にやってきた。食券売り場にはさすが平日の昼間、誰もいない。「チキンキムチバーガーチキンキムチバーガー」と呪文のように唱えながら食券機に向かう。が、チキンキムチバーガーが見つからない。ふとメニュー表を見ると、チキンキムチバーガーが載っていた場所に大きく「お好み焼き、はじめました」の文字。チキンキムチバーガーの代打がお好み焼きだって? 「冷やし中華、はじめました」テイストでお好み焼きをフィーチャーしてくるなんて、そんな店あるか?

まさかのチキンキムチバーガーの戦力外通告にがっくりとしつつ。ネギトロ丼と冷やしそばを頼む。まあいい。北海道はどこの店に行っても海鮮がうまい。ここはネギトロ丼が正解だろう。

うわあ。いいね。
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ネギトロ丼はやはり正解だった。わさび醤油でモグモグと食べると新鮮なマグロの味が口いっぱいに広がる。
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そばは普通だ。まあ温泉のそばが旨かったためしなんてないしな。
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途中、わさびで味を変える。まあ味を変えても普通なものは普通だ。
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ふう、食べた食べた。しかし困ったぞ。今の腹は尾崎だ。やはりチキンキムチバーガーを食べられなかった尾崎はご立腹のようだ(腹だけに)。物足りない。何かもう一品食べたいな。腹の尾崎がグウグウと俺を攻めたててくる。
ふと脳裏に「お好み焼き、はじめました」の文字がよぎる。お好み焼きか。温泉のお好み焼きなんてそうそう食べられるものじゃないぞ。この変わり種の新人に興味が沸き始めた。
「すみません、追加でお好み焼き」
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きたよきましたよ。鰹節が踊り、マヨとソースが絶妙の割合で絡んだお好み焼き。意外にちゃんとしたものがでてきたぞ。まずは一口。サクり。サクり。
外はサクサク、中はふんわり、が美味しいものの常套句だけれどもこれは新鮮。天かすが多めに入っているせいか、中も外もサクサクのお好み焼きである。胃袋尾崎がこれだよこれ! と狂喜乱舞しているのがわかる。不味くない。不味くないぞ。この変化球がまさに今の俺に必要だったものだ。
ふう。食べすぎた。やはり最後のお好み焼きは余計だったようだ。しかもこれから温泉に入るという。満腹の状態で温泉に入るとか不健康な感じだ。まずったな。
しかし窓ガラスを割ってまわった少年は翌日に逮捕され、やらなきゃよかったと思うだろうか。思わないだろう。それと同じで俺の腹はお好み焼きでパンパンながらも、謎の満足感に満たされていた。
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最後に「アンパンマンポップコーン工場」という謎のポップコーンマシンを見つける。これも食べてみるか? と尾崎胃袋に相談したところ、「もう俺たちはそういう歳じゃない。大人になれよ」といさめられる。ふむう。難しい胃袋である。

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