右手が恋人 [小説] By Y平

以前から完全オリジナルのSF小説を書きたいと思ってたんですが、
ついに生まれて初めて、短編ですが完成させることができました。
真面目に気持ち悪いことを書いてます。暇な人は是非とも読んでみてください。
読んだら感想を残していただけると幸いです。
ちなみに「つまらん」という辛らつな言葉でもOK。
「ここはこうしたほうがいんじゃね?」とか、
「ここはねーよ」みたいな批判もどんと来いです。
むしろタメになるから最高です。感想っていうか批判してください。
それではどうぞ。(書式はブログっぽくしてあります)
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*以下のように何箇所か修正を加えてあります。
(前半の最初のクダリ、ラストの描写を改訂)
(導入部を改訂)(海外旅行のくだりの簡略)
(主観客観の混在を修正)

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高校生である益雄は
「チェーンソーであの小生意気な佐和子の裸体をずたずたに切り刻み、
 バラバラになった五体から、文字通り尻のみを借り、
 糞と尿にまみれた佐和子の尻をズタズタに犯してやりたい」
と常人であれば思うだろう激しい憎悪を押さえ込み、フラフラとなって自宅に戻った。
そして一心不乱に手淫を始めるのであった。
激しい憎悪と筆者は記したが、それはあくまで常人であれば
抱くであろう憎悪であって、実のところ益雄は歯牙にもかけていない。
益雄は冗談ではなく手淫さえしていれば幸せであった。言い方を変えれば、
手淫という快楽さえあれば、益雄にふりかかるあらゆる災難や批難は
取るに足らないものである、という精神レベルに達してしまうほど、
益雄は貶められてきた。
益雄は幼少期から、あらゆる人間にいじめられてきた。それは一方では、
益雄の醜すぎた顔のせいでもあるし、益雄はそれでいじめられてきたと思ってきた。
ところが、本当のところは、己がコンプレックスゆえに捻じ曲がってしまった
性格のほうに問題があった。もちろん本人は無自覚である。
いや、たとえ益雄がそれを自覚したとしても、
「そういう風にしてしまった周りの人間」をためらいなく恨めるほど、
益雄は暴力的に神経を病んでいた。否、病むはずであった。
上述のように病むはずであったところの益雄を救ったのは、言うまでもなく手淫である。
益雄にとっては手淫は神さまであり、もはや宗教的と言っていいほどに
手淫に自我を支配されていた。
手淫に関するあらゆる高尚な論理、倫理などが益雄によって構築され、
従って益雄が手淫にありがちな虚無感を抱くことは当になくなっていた。
益雄はこと手淫に関しては、ずば抜けて超越した精神構造を持つことができた。
もちろん、この段階へ至るまでの過程には、学術的に言えば
「世間に対するコンプレックスによる逃避行動」だとか、
「性的分泌物を出す機能の遺伝的若しくは突然変異的欠陥」などという
最もらしい理論が絡んできただろうが、少なくとも今の益雄を説明付ける
学術的事象を見つけることは、私の仕事ではない。
であるから、この辺でいささか省略させていただく。
とにかく益雄は熱狂的オナニストであった。
益雄は自室に入るや否やベッドに寝転がると、脳内で佐和子を裸にした。
そして過去13年間毎日してきた通りの方法で、数回に渡る手淫を終え、
陰茎を握り締めたまま眠ってしまった。
益雄の体に変化が起こったのはその次の日である。
母親の声に起こされ、寝ぼけ眼でパジャマのボタンに右手をかけようとしたとき、
益雄は異変に気がついた。右手が陰茎を握り締めていたときのまま
微動だにしないのである。
益雄は右手から陰茎をどうにかして抜き出すと。
右手をしげしげと観察した。
右手は筒状のものを握った状態のまま、開くことも、閉じることもできないようである。
それは瞬間接着剤で固定されたようになっていて、いくら力をいれてもビクともしない。
まるで初めから益雄の右手はこうであったと思えるほど、
益雄の指先はピクリとも動かすことができない。
そうこうしてるうちに、業を煮やした母親が「遅刻しますよ」と叫んできたので、
益雄は観察を断念せざる負えなかった。
左手だけを使い、どうにか制服を着ると、そのまま家を飛び出した。
完全な遅刻であった。
学校に着いても益雄の右手はペニスを握り締めていたときのままである。
放課中にカッターナイフで、くっついている親指の先と人差し指の先の間を切ろうとしたが、
刃が触れた瞬間に激痛が走り、断念した。
益雄はその日は、左手のみで授業を受けねばならなかった。
家に戻ると、両親が海外旅行に出かけ、家はもぬけの殻になっている。
益雄は「平日に海外旅行だなんてどうかしてる」という
当然の反感を抱くこともなく、ただ両親の不在を喜んだ。
思う存分オナニーができるからである。
熱狂的オナニストといえど、オナニーが他人に見られたくない事象であることは
変わりないらしい。親の目を忍ぶ必要がないのは、益雄にとって好材料であった。
さて益雄君。両親は海外旅行の益雄君。鼻息あらく玄関へ、飛び込みそそくさ靴を脱ぐ。
ズボン脱ごうと轟々と、両手をベルトにかけようと、右手左手ベルトにかけて、
さあはずせ、ベルトをはずせ。遮二無二ベルトをカチャカチャと、
そしたら右手が動かない。途端に萎えたよおチンコさん。
さすがの益雄もこれには参った。ペニスを握った形のまま微動だにせぬ右手を見るにつけ、
性欲よりも心配のほうが大きくなってきた。
「ひょっとして重度の神経症にでもかかったのでは?」と益雄は思った。
「オナニーさえあれば幸せ」主義の楽天家も、やっとこさ自分の体を案じ始めたのだ。
オロオロと自分の右手を見ながら、ひとしきり家中を徘徊すると、
益雄は何やら変な気分になってきた。
確かに恐怖感もある。一方では病院に行かねばという冷静な判断をする自分もいる。
しかしそれ以上に体の内から沸き起こってくる何とも言えぬ性欲が、
益雄の冷めつつある頭を侵食し始めた。この右手で思いっきり手淫したい!
益雄の自我が崩壊し始めた。
とろんとした目つきで右手を眺めていた益雄は、すわ、左手でもって
乱暴にズボンとパンツを脱ぎ捨てると、イチモツを右手に滑り込ませた。
そして小刻みに右手を上下にやり始める。
益雄の右手の中は、なにやらヌメヌメと湿っており、若干体温も高いように思える。
かつ右手は、朝方よりプクプクと腫れてきているらしく、その穴は狭く、非常によく締まる。
しばらく上下動を繰り返していると、右手はグチュグチュと音を立て始め、
次第に生臭いにおいを発するようになった。童貞の益雄であったが、
どうやらこの臭いが女性の淫水の臭いであるということを本能的に感ずることができた。
もちろん、益雄の頭の中では「そんな馬鹿な!」と今起こっている現象を
必死に否定しようとする部分もあった。しかしその思いも空しく、
それは性的快感の波に全て打ち流された。
それどころか、快感に思うままに操られる自分に対する罪悪感が、
いっそう益雄の性欲を掻き立てた。益雄はそのまま立て続けに4回射精した。
不思議なことに、益雄が手淫すればするほど、時間が経てば経つほど、
右手は大きく腫れていき、色っぽく丸みを帯びていく。
もはや益雄の右手は5本の指の区別はなくなり、ゴムマリのような肉塊と化している。
そして本来、小指だったはずの場所の横(ゲンコツの小指側側面)には、
縦のラインの割れ目がすうっと入っている。
益雄はその割れ目が女性器であると確信した。益雄のイチモツは本能的に
その割れ目に吸い込まれていくようで、益雄はどうにもならない。
右手がもたらすあまりの快感は、病院に行かねばという思考すら押し流し、
そのうち益雄はとうとう動物のようになってしまった。
涎を垂らし、白目をむき、狂ったように右手を求め続けた。
右手はどんどん大きく膨らみ、桃色に紅潮していった。
さあ、12回目の射精だぞと益雄が腰を浮かせ始めたところで、異変は起こった。
益雄の右手の中から、「きりっ」という乾いた音が聞こえると同時に、
益雄の全身をかつて経験したことのない痛みが襲ったのである。
快感で精神的に緩みきっていた益雄は、突然の痛みに心臓麻痺を起こし、
しばらく仮死状態に陥った。しかし運のいいことにすぐに蘇生をし、
なんとか事なきを得たものの、そのまま朝まで失神するに至った。
右手の中からは血がタラリと流れていた。言うまでもなく、この痛みは破瓜の痛みであった。
益雄が失神している間に、益雄の右手はすっかり身の丈170cmの美しい女性の姿になった。
と言っても、膣の部分で益雄の右手首とつながっているので、
いささか動きづらそうではある。
「右手」はその美しい「右手」の髪を右手でいやらしくすきながら、
失神している益雄を愛おしそうな目で見た。
いかにも抑えきれぬと言ったような愛情を、美しい顔いっぱいに浮かべると、
益雄を居間にひきずり込み、カーペットの上に寝かせてやった。
そして益雄が風邪をひかぬようにと、毛布をかけ、
「右手」も毛布にもぐりこんで寝た。「右手」は幸せそうであった。
さて益雄君。朝起きてみると、見知らぬ女性が横で寝てる上、
その女性が自分の右手首から生えているのだからその驚きと言っちゃあこの上ない。
益雄は「うゃあ」と声をあげると、毛布から飛びのこうとした。
しかし右腕が「右手」とつながっているため、
「ピンッ」とつながれた犬のようになった挙句、もんどり打って倒れた。
と同時に右手に激痛を感じた。
急に膣を引っ張られ、「右手」は痛さで目覚めた。
そして恨めしそうな目で一瞬益雄を睨んだのち、ニコリと優しく微笑んだ。
その目が「おはよう」と言っている。爽やかな朝。
益雄は目を白黒させながら、勃起するのも忘れてしばし「右手」の裸体に見入った。
彼が唖然としていると、彼女は益雄の脳内にピンク色のもやもやを
しきりに送りつけてきた。そのもやもやから益雄は、
「右手」がどんなに自分を深く愛しているかを容易に知ることができた。
初めて感じる、言葉で言い表すことのできない愛を
己の右手から感じ、益雄は思わず涙した。
とともに、その愛情から感ぜられる、性的な甘美さも敏感にキャッチし再び勃起した。
益雄は右手に覆いかぶさった。「右手」の色っぽい吐息が漏れる。
あまりの急展開に読者はついてこられないと思うから、解説しておこう。
つまり「右手」も益雄自身に変わりはないのだから、「右手」が考えていることが
益雄には手に取るように分かるのである。逆もまた然りだ。
だから短時間で二人は多くの情報を交換できた。それも言語的レベルに留まらず、
イメージのレベルで曖昧な心境も正確に伝え合えるのである。
言葉に出さずとも、考えるだけで、あるいは感じるだけで即座に
自分の心境を伝えられるのである。それは言葉にして口にするよりもずっと速く、
そして正確であった。
その上、自分同士であるから、お互いに他の誰よりも愛しく思えるのだった。
自己愛は、どんな他人同士の愛よりも真実である。二人が愛し合うのは必然と言えよう。
益雄はすぐに学校に電話をかけると、病気ということにして
しばらくズル休みをすることにした。丁度親がいなかったことでそれは容易にできた。
数日間は「右手」と文字通り愛欲の日々を過ごした。
考えていること、感じることが否応無しに伝わると言うことは、
二人のセックスに大いに影響を与えるものである。
破瓜したばかりの「右手」は、それから数回の交渉はかなりの痛みを感じることとなったのだが、
二人の場合はまた特殊である。その痛みを益雄も感じるのである。
益雄は右手に気も狂わんばかりの痛みを抱えつつ、
一方では自分のペニスで天にも昇るような快感を味わった。
なんと言っても「右手」の膣は名器だから、昨日まで童貞だった益雄はもう病み付きである。
おまけに、豊かな胸にくびれたウエスト、益雄好みの美人の「右手」が
相手であるからまた酷い。益雄は女の感じる想像を絶する痛みを、
男の体で体感しつつ、男の快感に溺れた。
しかし情事がエスカレートしていくと、更に益雄にとって大変である。
数回交渉を重ねた後、「右手」は段々と女の快感を知るようになっていくのだ。
無論、この快感は益雄にも伝わるのだからとんでもない。
益雄はイチモツから男の快感を味わいつつ、同時に
「異物を挿入されて得られる快感」もまた右手で味わうのである。
女の快感は男性の9倍とはよく言ったものだが、これを男である益雄が味わうのは、
あまりに刺激が強すぎて危険であった。
益雄は、「右手」が絶頂を迎えるたび、右手に絶頂を感じ、
白目を剥き、口から涎をたらし、のけぞり、歯をガチガチ言わせて紅潮し、
心臓麻痺を起こしかけた。
それでも益雄はその快感から抜け出すことができない。命の危険を冒してもなお、
この快感を味わい続けたいと思った。ここまで来ると麻薬である。
益雄は「右手」を心底愛し、何度も抱き、お互いに脳内で
「愛している」という桃色のモヤモヤを交換し続けた。
「右手」も益雄も幸せの絶頂だった。
旅行から帰ってきた両親は、裸の美女と並んで死んだように眠っている益雄を見て、
ひどく驚いた。
母親は卒倒するし、古風な父親は「勘当だ」と快楽で弱った益雄を殴り散らした。
益雄は腎虚によってそのまま入院した。無論、「右手」も一緒である。
右手が女になるだなんていう、非常識な現象は、
初めのうちは誰にも受け入れられる問題ではなかった。
しかし現実に、益雄の右手は女になってしまっていたし、
受け入れるも受け入れないもない。
散々のパニックがあった後、世間は半ば諦めるようにしてこの問題に取り組み始めた。
マスメディアによって、悲劇的に二人の姿が報道されたため、
人々は同情心から激論を交わすことを思いついた。
とりわけ「放射性物質の影響」というものが取沙汰され、
それが真実かどうかは分からないが、世論を賑わすようになってしまったので
困ったのが政府だ。「政府は何してる!」という国民の罵倒におされて、
とうとう厚生労働省は専門の対策委員会を設置。
益雄の体はもちろん、あらゆる方面から原因を探ることに徹した。しかし分からなかった。
実際益雄はまったく不幸に感じていなかったが、いかにも分からないことが
民衆の目には不憫に映った。そんな世論をいやらしく察知し、
益雄を励ますという名目で総理大臣がやってきて力強く言った。「必ずあなたを助けます」
続いて外国からはよく分からないフォーク歌手みたいな外人がやってきて、
「あなたがかわいそう~♪」みたいなニュアンスの歌を歌って帰っていった。
益雄は会見で、「これ以上政治利用されるのは真っ平だ」と叫んだ。
「右手」も珍しくその美しい顔に怒りを浮かべていた。
騒ぎが沈静化に向かい始めた数ヵ月後、「右手」の妊娠が発覚した。4ヶ月であった。
当初、ただでさえ身重の二人に、出産は無理であろうと周囲は反対した。
しかし、二人の愛で乗り越えられぬものはない。
二人の愛は自己愛であるがゆえに完璧である。
そして益雄はこの世のどんな男よりも女の苦労を知っているし、
また、「右手」も益雄の全てを知りつくしている。
二人はどんな障害でも乗り越えられる、ベストパートナーであった。
周囲も渋々納得するしかない。
数ヵ月後、「右手」の体に待望の陣痛がきた。
陣痛が起こった刹那、益雄は気ちがいじみた痛みを右手に覚え、
身をよじり、泡を吹いて卒倒した。益雄は混濁した意識の中、自分は死ぬと思った。
しかしそれでも、痛みと死で埋め尽くされた意識の片隅で、
わが子が生まれるという事実に歓喜し、益雄は確かに幸せを感じたのである。
そのまま益雄は陣痛の痛みで死んだ。幸せそうな顔であった。
益雄が死ぬと、彼の死の瞬間のイメージを直接受け取った「右手」は、
たちまちその恐怖に意識を支配された。そればかりか立て続けに、
出産の幸せというイメージまで受け取った「右手」はおおいに混乱し、
益雄の残した死と幸福の想念に精神を押しつぶされ発狂した。
発狂した「右手」に、今度は身体的苦痛が待ち受けていた。
益雄という半身を失った「右手」は、血流のバランスを崩し、
心不全を起こしてまもなく死んだ。
しかし奇跡的に赤ん坊だけは助かり、手術室には産声が鳴り響いた。
益雄そっくりの益雄の息子は、益雄の両親に育てられすくすくと育った。
そして高校に進学してまもなく。彼の右手はゴムマリのように膨れ上がりそして――
(終)
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