いらっしゃいませ By Y平

 頭が悪くなったと言うより、脳みそが後退してきてる。
 それもそのはず。あまりにも頭を使わなさすぎてる。思い起こせば一ヶ月、大学に5回くらいしか行ってない気がする。ずっと家にいたような気がする。っつっても勿論それは比喩であって、実際はもっと行ってるんだろうけども、なにせ記憶がない。日々を漫然と過ごしている。口を開け、何か呪詛のような言葉を撒き散らしながら、ずっとパソコンに向かっている。
 やばい。という気持ちはある。このままでは精神病になってしまう。若年性アルツハイマー、鬱、抑うつ、気分変調、自殺。負のワードが頭の中をグルグルと駆け回り、その影で、脱落者、社会不適合者、等の負のステータスの烙印を持ったネガティブな自分が、にやりと佇んでいる。
 いいや、まだだ! 俺は負けない! 俺は……まだいけるのだ! わずかばかり残ったポジティブな僕が、僕の脳に「考える力」を注入する。ためしにここ最近の記憶を脳みそからサルベージしてみる。自分を「正常」たらしめる、明るい記憶を思い出せ。「正常である」と自分自身に思い込ませるためのエコーチェンバー的行為。僕は……正常ナノダ!
 ザブり。ボコボコ。僕は今、深海を思わせるくら~い暗い記憶の海にウエットスーツすら着ずにダイビング中である。暗い。寒い。光を一切吸収する闇の海。記憶の闇。そこには何もない。何も覚えていない、ように思えた。やはり僕はすっかり異常者の仲間入りなのだろうか? 
 否。まだ僕はそっち側に逝きたくはない。負けてたまるか。決死の勇気と、正常に生きたいと思う力を重りにし、僕はぐんぐんと沈んで行く。すると見えた。はるか底、針ほどの穴からもれ出ているような、かぼそい一筋の記憶の光たち。海底には「就活」「クリスマス」「忘年会」「中間テスト」折々に触れた、輝かしき行事たちの記憶の残滓があった。そこはまさに、心のバーミューダートライアングル。悪魔的な力によって難破し、悲しげに海底に沈んでいるであろう豪華客船が、僕の記憶たちの残骸とかぶる。
 思い出した。僕は砂金のように輝く記憶の一片を手のひらにグッと掴むと、記憶の深海を上へ上へと泳いでいく。バサア。太陽の光をあちこちに反射させ、サンサンと輝いた海面上で、僕は手をつきあげる。記憶の勝利者たる者の手には、錆びれたドックタグが握られている。記憶のドックタグ。僕は記憶に打ち勝った。正常への第一歩を勝ち取った。否、僕は正常そのものであるまいか! はっはっは! 僕はまだ生きている! キチンと生きているのだ! しかし、高笑いする僕の手に握られたドックタグには、子供のような汚い字でこう刻まれている。
「ファイナルファンタジータクティクスのラスボスは弱かった」
 ダメである。12月の記憶はざっとこんなもんしかない。気づけば、昨日食べた晩飯すら思い出せない。あれれ? 僕はボケてしまったのではあるまいか。あるいはうつ病か。脳内神経系がすっかり朽ちてしまった?
 そういえばこんなことがあった。コンビニでバイトしてたときのことだ。いつものように、感情を押し殺し、レジマシーンになりきっていた僕の前に、豚カルビ弁当が置かれた。ドカ! 「いらっしゃいませ」
 ぶっきらぼうにレジマシーン(僕)の前に佇むのは工場勤務らしい男。厳しい環境にさらされ、全てのことに油断なく目を光らせる生き方を選んだ結果、男の目は普段から攻撃性を帯びているようだ。社会という名の野生は、ここまで人を凶暴にさせる。
 「お弁当あたためますか?」僕が笑顔を顔にべったりと塗りたくり話しかけると、男は憎しみを帯びた目をギラリと向け、めんどくさそうに「あぁ」と答える。レジマシーンは蚊の鳴くような返事を聞き取ると、さらに笑顔を2、3センチ厚めに塗りたくり、事務的に豚カルビ弁当をレンジへとぶち込む。バタン! 「399円頂戴いたしまーす!」声とともにレジ台に投げつけられる500円硬貨。マシーンは再び笑顔のファンデーションを探すが、「もう売り切れだ」って脳内ファンケルのおばちゃんが言うてた。
 残ったファンデでかろうじて笑顔のまま、マシーンは500円硬貨を拾い上げる。機械的にお釣りを渡すと、後方でレンジの音が。ピー! 野獣の豚カルビ弁当をレンジの中から取り上げ、手際よく弁当を袋につめていく。つめ終わった。最後に、袋の取って部分を、野獣がとりやすいように、クルクルとねじりながら、笑顔でお別れの言葉を述べようとする。願わくば永遠の別れを。僕の脳みそは既に何千回と繰り返されたであろうお別れの言葉「アリガトウゴザイマシタ」を信号化して送ってくる。僕の口は脳からの信号をはっきりとそう受け取った。信号を受け取った口は、刹那の間のあと大声でこう音を発した。
「いらっしゃいませ!」
 思い出した。昨日の晩御飯はピザだ。僕もまだまだイケるようだ。
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美容院 By Y平

【お知らせ】
 新ブログ作りました → http://uretanyokumoeru.seesaa.net/
【日記】
 気づくと、「もしリリー・フランキーが職を失ったらこうなる」風の髪形になっていたのでびびった。のび放題だ。そればかりか、傷んだ茶髪はまるで洗ってない柴犬の毛のようになっている。
 そういえば、9月の後半あたりから切ってなかった気がする。なるほど、だからこの前の合同企業説明会でナメられた。出展企業の方に、「君、聞くの?」と冷めた顔で言われた。なるほど。すべて髪が悪い。そう、思いたいんだ。僕は、さ。
 ということで美容院に行ってきたんだけど、やっぱり死んだ。いや、僕は美容院に行く度に、「失敗した。刈上げになった」と言う類の人種、実際本人は変わった変わったいうけど両親には「全然切ってない。金の無駄」と言い放たれる側の人種なんすけど、今度は本当に死んだ。例えていうなら、90年代のはぐれ刑事の新米の髪形になった。山岡さんよりもっと前のこう、可愛い髪形。どうして、今。はぐれ刑事。
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理想の職場探求 By Y平

 就活生のこの時期っつーのは、猫も杓子も業界研究だの企業研究とか騒いでますが、へえって感じです。いや、もっとも。相手を知らなけりゃどこに就職したいとかそんなのもないですわ。だからご多聞に漏れず僕もやるわけです。HPだの説明会などに出席して、会社のことを知る。ときには社員の生の声を聞かせていただくなんてアクティブな機会もありますわ。でもあれって怖いっすね。
 というのも、先日。就活サイト見てたら、先輩社員の声みたいなコンテンツに、僕の友人が載ってたので笑いました。何が笑えるって、そこに書いてある内容。「充実感」「達成感」「コミュニケーション力向上」と言った、仕事のいわば「陽」の部分を全面に押し出した希望にあふれるインタビュー、友人の満面の笑みが、就活生のエントリー意欲に訴えかけてくる。いいなあ、仕事って。あいつも大分変わったなあ。輝いてるなあ。だなんてシミジミ。とか思いません。全然。なぜ? だってあいつ常に電話で「仕事やめてえー」って言ってるんですもの。
 怖いな、メディアって。て思うのもあるんですけど、まあ仕事なんて辛いのが前提みたいのがありますわ。だので、そんぐらい全然いいっすわ。
 しかしですわ。かたや僕の別の友人(社会人)などは、キツそうな職場に働いてる印象があったのに、「トイレにこもって1時間ぐらいサボってる。これ、上司もよく使う手」などと言い放つので、社会人って分かりません。
 その他にも、例えばSEなども、一日中デスクに向かい合うSEもいれば、積極的に外部に飛び回り、コミュニケーションをばらまく、皆が好きそうなタイプのSEもいる。ルーティンワークをずーっとこなす開発職(開発なのか?)と、自分の発想が生かせる開発職。手取りはいいがボーナスがほとんどない、その逆etc……色々ありますが、そういう知識の披露は誰か、そういう方面の顕示欲の強い人にやらせればいいので割愛します。
 そういった感じなので、ここで改めて、僕がどんな職につきたいのか考えねばなるまい。なので考える。うーん。女子高生が欲しいな、職場に。
 というのも、僕のバイト先の話。遅刻した女子高生が「す、すいませぇ~ん!」と言いながらトテトテ入ってくる。もちろん制服姿だ。先輩である僕はそれを見ると、「君ぃ! スカートはまずいよ!」とビシリと注意する。彼女は僕に注意され、初めて自分が制服姿だった事実に気づく。「はわあ、ほんとだ! すいませぇん! 着替えてきます!」と慌しく背を向け、走っていく。トテトテ。内心、(今気づいたとかウソだろ)と思いつつ、「まあ、いい。そのまんま入りなさい」と僕は声をかける。僕の声に反応し、彼女、キキっと急ブレーキ。反動で「おわっ」と小さく声をあげる。長い髪をパッとはじけさせながら、僕のほうに顔を向けると、「あ、ぁりがとうございます! すいませんでした!」と一礼。ペコリ。おじぎしたときに、肩掛けバックから、教科書が一冊ドサリと落ちる。彼女は「あわっ!」と声にならない声をあげ、「あ~もう、プンプン」という効果音がつきそうな困った顔をしながら、教科書を取り上げると、「へへへ」と照れ笑い。この一連のシーン、全部事実。どこの美少女ゲーム?
 という経験に基づきまして、僕は女子高生がいる職場につきたい。これは全うな自己分析だと思いますがどうか? じゃあ、教師は? 教師か……いや、教師は……ほら、ネットいじめとか、面倒なことが……色々あるし。ならば、いっそ今のバイト先? コンビニ。半年に1回新キャラ女子高生が入る職。手取り10万、年末調整時、長期休暇可能。年収は100万弱。女子高生。人生を無頼に生きてみる? 悪くないね。
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逃避力 By Y平

 今週5日くらい休みがあったんですけど、僕の人生どうなった?
 いえ、突然こう言うのも何ですけど休みが多すぎるっていいですね。最高です。ん? いいのか? 僕22歳なんすけど、休みが多すぎるって良い事なのか?
「違うよ」
 常識的な僕が頭の中から語りかける。確かに違う。この休みが小学生の夏休みのノリとは違うことに深いところで僕は気づいてる。もっとこう、再就職を目指す40代が、昼間の公園、ベンチでため息をついてる、とかそう言った属性の休みの……ような……
 暗い話をすると人生をポジティブに生きるのに必死な人種に蔑まれるのでやめる。いえ、むしろこれは暗い話なのか? クラクナーイ、全然。暗くない、最高の生活ダヨ。僕はポジティブなんだよ。みんなが大好きなポジティブなんだよ。……いや、正確な表現じゃないな。なんつーんだろ? 人生的なレベルでの不感症、とでも言いましょうか。何も感じなくなったらつえーよ、人間。……うん? 強いのか? 強いのか弱いのかという次元のお話?
 そんなわけで、巨大な何か(ヒント:リクルートスーツ)から逃げつつ、たまに思い出したかのように振り返り、一撃だけ攻撃し、再び逃げるという生活を繰り返しています。そんな精神的な意味での逃亡生活を続けていると、逃げる力は本当に強大だと感じます。
 というのも、三ヶ月前ぐらいからピアノを始めたのですが、今や元ピアノ教室の先生である母親を唸らせるほどの上達ぶりを見せています。んで、大いなる自己顕示欲でもって、そろそろ「動画サイトにうpしよかなぁー」とか考えつつ、「演奏してみたタグ」(ヒント:ニコニコ)で、演奏の猛者たちを鑑賞。奴らに触発されて、なにくそとまた練習するわけです。一体何を? ピアノを。一日平均2時間は練習してる。どうして? 今?
 それと言うのも今の僕は、黒いくせに明るく見せようと頑張ってる何か達の母集団(ヒント:リクナビ、説明会、SPI)から絶賛逃亡中なわけで、逃亡生活を送ってなけりゃ、ピアノなんて腐ってもやるはずもなく。然るに今「ピアノたのしいー」っつって充実した顔をしている僕の顔の本当の裏っかわには、リクルートスーツ着たビクビクした小動物がいるわけで。……クソ! もう、ホント! バカ! バカ野郎! ……えっと、一体誰に向かってバカヤロウ?
 「自分が幸福になるように働け」とは本田宗一郎の言葉ですが、不幸に向かって力を注ぎたい奴が確実にいる。僕とか、ほら……そこのあなたとか。
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