別に何もめでたくない By Y平

風呂が嫌い。いや、正確に言うと嫌いになった。
なにが嫌いってあの無防備な感じが至極嫌い。
考えてもみなさい。あのとき、シャンプーとかしてるときにですよ?
東海大地震が起きたなんて考えてみなさい。
助からぬ。絶対助からぬ。よしんば助かったとしても風呂場倒壊。
僕は浴槽のわずかなスペースに閉じ込められるのだ。
水があるので何日かは生き延びると思われがちだが、
その後やるせないほどの寒波にやられ、凍りつく。死ぬ。裸で死ぬ。
凍死した僕を見つけた救助員は三年後。酒の席にて
「凍死した人のチンコ、マジちいせえからー!」
とか下衆なジョークを吐くのだ。幽霊になった僕はそのアホの枕元に立ち
「寒いときは仕方ない寒いときは仕方ない寒いときは仕方ない」と
ブツブツと恨み言を吐きながら逝く。侮辱。なんたる侮辱。
また運よく逃げおおせたとしても、僕は裸である。
寒さで縮み上がったチンコを近所中の人に見られるわけで。
「ちっさ」みたいなヒソヒソ声が聞こえる中、
僕は「しかたねーだろーがよー。寒いとこうなるだろ? な? な? な?」と
周りに同調をあおる。しかし服のある男共は
「いくらなんでもあの小ささはない」なんてしたり顔。
僕は「じゃあテメエ脱いでみろや」などと叫びながら、
男どものズボンをさげにかかる。
そうすると僕はたちまち変態のレッテルを貼られ、皆から迫害を受ける。
「おい粗チン!」「てめえにやる配給はねえ!」「近寄らないでよ変態!」
「みんな大変なのにお前ってやつは!」
集団の団結を深めるには、一人の敵を作るのが上策。
僕は甘んじてその一人の敵になってやる。僕が迫害を受けることで、
震災後の皆の団結を確たるものにするのだ。醜い? 違う、これは道理だ。
殺伐とした避難生活は、僕という格好のサンドバックによって、均衡を保つ。
しかしサンドバックの奮闘空しく、
後に映画化されるのはもっぱら救助隊の話ばかり。
本当の英雄は僕なのに。いつだって世間はそう。
本当のことは何も分かっちゃいない。
まあそんなことはいいとして、普通にお化けが怖い。
シャンプー中に背中に誰かいる気がする。
やばい、着信アリ見るんじゃなかった。怖い。美々子いる、ぜったい美々子おる。
俺の背中で包丁持って立ってる。
ならばどうするか? 回転すればいんじゃね? 僕は背後をつかれない様、
クルクル回りながらシャンプーをする。当然目はガン開き。
ときおり天井を見るのも忘れない。すぐ足元にいるみたいな、呪怨スタイルも考えられる。
下も見る。上も見る。回転する。こける。痛い。
背中にいるのは美々子。痛いと思ったら包丁刺さってる。そりゃ痛いわーかなわんわー
大晦日の話。僕はすでに2日風呂に入っていない状態です。
まあそれでバイトに行っちゃったりするんですが、たぶん臭ってはない。
髪がなんかベタベタしてて、デフォルトでワックス付けたみたいに
なってたけど、まあよし。ワックスと認識してレジを打つ。人間割りきりが大切よ。
バイト終了後――
「紅白に胸出た! 胸出た!」などと一人ヒートアップした父親を持て余しながら、考える。
時刻は23時。僕は2006年を、もっとも汚い状態で終えようとしているのだ。
それはどうなんだろう? 折角だからたまには風呂に入ってもいんじゃねーかな。
だなんて一瞬常識を取り戻すのだけれど、そのころ風呂場では美々子が
僕の背後をどうやって取ろうか思案しているわけで。
「マジあいつの回転やっかい」だなんてブツブツ言ってる美々子がいるわけで。
それを風呂場のスキマから見ている僕がいるわけで。
「ひええ、やっぱダメ、風呂ダメ」情けない声をあげ、洗面所から逃げ帰ると、
DJオズマの動画を必死にyoutubeで検索している父親の図。
「あいつ面白いなー。だって紅白だよ!?」
やめて、僕はあなたと下ネタを話したくない。親と下ネタ嫌い。
ならば再び考える。2006年の垢を2006年に落としきる道理はない。
人は忘年会だとか、風呂にはいるとか、汚いモノ、嫌なことを
デリートしようみたいなイベントに熱を上げてるみたいだけども、一寸待て。ウェイト。
人間の成長は嫌なことを抱えながらも、必死に生きていくことにあるのではなかろうか?
マイナスを全てなかったことにして生きるのは、成長のない人生だ。
マイナスこそ人間の成長である。と僕は思った。
というところで、僕が風呂に入る道理はなくなった。やった-。
さあ、2007年を垢だらけの体で迎えた僕から、
清潔で常識的な皆さんへ愛を込めて。
「着信アリは糞映画です!」
大晦日からずっとバイトだよー^^ ちなみに昨日も風呂入ってねー
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