くつ紐がお切れになってしまわれた。凍狂に唯一持っていった、一足のスニーカー、穴の開いたぼろぼろのスニーカー、これの紐が切れちまった。
「じゃあ買えばいいじゃない」
と、君はしれっと言うかもしれないが、とんだアントワネットだよあんたは。ボケが。そんなお金があるとお思いか? あんたはそのくつ紐代500円で、何キロカロリーの飯が食えるか分かってない。ぬくぬくの坊やには分からない。劣悪なアパートで、劣悪なベットで、ねずみと共同生活をしている僕なら、きっと分かる。財布も軽い。パスタは塩で食う。だから僕はくつ紐を買わない。
くつ紐は買わなかったが、今マンガ喫茶でこの日記を書いている。ナイトパック6時間1200円、これは安い! 僕は久方ぶりのインターネッツ天国に身をまかせ、欲望のままにさまざまなサイトを見回る。ひゃあ、楽しい! このゴミになったような感覚。mixi日記などを、ニヤニヤしながら閲覧する大学生的ノリ。今なら言える。mixi日記にひたすら「みんな大好きだーーーーー!」的、人間らしさのかけらもない、よく分からない日記を羅列している輩にコメント書ける。「俺もお前のこと大好きだーーー!」なんつって、本心の欠片もない空虚な言葉を堂々と、書ける。ような、気がする。
っつーとツッコミ入りまーす!
「漫喫いくぐらいなら、くつ紐買えよ。このかまってチャンの貧乏アピーラーが」
っつーツッコミ入りマース! イエス、ツッコミはいりやっしたあ! このミドリムシ!
ここで二つの状況を考えましょう。お金持ちの男がいましたと。そのお金持ちは独身だが、金の力でなんでも手に入ります。欲しいと思ったものは、すぐに買えます。食うものにも困りません。だもので、めいっぱい自分の好きなときに遊び、好きなときに休み、悠々自適の生活を送りました。しかし三年後、なんとなし、満たされない気持ちにとらわれ、自殺してしまいましたとさ。
次に貧乏の家族がいましたよと。その家族はお金がないので、食うものにも困ります。パスタは塩だけで食います。そんな家族に大ピンチ、母親が病に倒れます。母の枕元には稼ぎの悪い夫、中学生になった息子。夫は母親の手をにぎり、「ごめんな、苦労させて、ごめんな」と泣きながら詫びる。それに呼応しむせび泣く息子。しかし母親は、ギュッと力強く夫の手をにぎりこう言うんだ。「いいえ、苦しかったけど、幸せだったわ」
要するに、物質的なことより、精神的なことで幸せ追求したほうがいいっつーエピソードだよ。ねえ、日本人ってこういうのに感動する傾向、あるよね? ね? つまり、くつ紐(物質的幸福)より、マンガ喫茶(精神的幸福)をとるのは、必然っつーわけで、そこを責められちゃあ、よろしくない。それを認めちまうと、君は死に逝く母親に「うっせーババア、負け惜しみすんな!」って言っちゃう馬鹿息子かなんかになっちまうよ。
たぶんそんなことにはならない。どうでもいい。お前のくつ紐よこせ。ノートパソコンを僕のアパートに届けろ。それで万事解決するっつーお話ですよ。お金をくれればもっと早い。二つのエピソードは虚空の彼方に消えうせる。
でまあ就活のお話。っつーかわざわざマン喫に入ったのは、企業からのメールをチェックしたり、エントリーシートを提出したりと、割とポジティブな動機もあるわけよ。アパートにインターネッツがないかんね。真面目なのよぼかあ。
で、ネットサーフィンもそこそこに、メールチェックしたわけだけれど、とある企業の面接が合格したとのお話が。ふーん、やったあ。久方ぶりに動画ファイルナビゲーターで淫猥な動画見つつ、片手間のメールチェック。次、最終面接だってよ。マジかよ。やった。これで名古屋帰れる。
しかし企業のメールを読み込むと、冷や汗がブワっと出た。「最終面接の希望日を20日までに返信してください」と書いてある。20日ってちょっと昔な気がするなあ。今、何日。23日? へえ、死んだ。死んだのでどうしよう。「どうしようもないのが社会人」とか何とか、今までに出会った、偉そうな就活生たちが僕の頭の中でガヤガヤと話し始める。「メールの返信期日も守れないようじゃ……」「クイックレスポンスは社会人の基本だし」「外資系の企業は云々」「B to Bの企業は……」などと、口々に輝いてるフリをする空虚な就活生たちが僕の脳内で暴れだす。うるせえ。だまれ。お前らホント、業界用語だけは達者だな。嘘を塗りたくったその笑顔はなんだ。ホント、むかむかする。
むかむかするが、この場合は僕の全面降伏である。確実に僕が悪い。インターネットする環境がない僕が悪い。つまり環境が悪い。僕は悪くない。
と言うと、またしても各方面から「皆まで言うなよ」とも思える発言が飛び交うので撤回するよ。ああ、僕が悪うござんした。悪い悪い不良の僕は、さっそく企業のほうに返信メールを送る。全面降伏の姿勢をあらわし、「できたらお願いします」、とへりくだる。知ってる。多分ダメなのを僕は知っている。知っている僕は泣きながら走り出す。走っていたら靴が脱げ、僕は盛大にアスファルトに叩き付けられる。見ると、くつ紐がちぎれたスニーカーが僕の後ろに転がり、僕を馬鹿にするように踵の部分をびろびろさせている。
「このクソスニーカーが!」
と僕は明けいく夜空に向かって叫び、スニーカーをぶん投げる。道端の猫が目を光らせ、にゃーと鳴く。僕は血気盛んな勢いのままアパートに向かって走る。ドアを蹴破るようにして開けると、廊下を走る2、3匹のデカイねずみ。それに向かってビロビロのスニーカーを投げつけ、一匹の巨ねずみをぶっ潰す。つぶされてヘロヘロになったねずみを僕は引っつかみ、そのままパスタにぶち込んで塩を振る。塩ねずみパスタの出来上がり。これは美味い!
というほどでもなく、凍狂生活は順調です。楽しいとこですね凍狂。
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凍狂生活 By Y平
「お金がない!」
とか言うと、織田祐二とかが焼肉屋からダッシュで逃げる、それを追いかける焼肉屋の店主。店主をはるか後方、背に見送りながら、大口あけて織田さん「ごめんなさ~い!」とかなんとか大ハシャギしながらダッシュの図。あの妙ちくりんなノリでコミカルに食い逃げするイメージとかがこう、頭によぎりますわな。
あるいは今風に言えば、小栗旬が、ちょっとB系のノリで「ボンビーメン!」とか、あの喋るときにゆらゆらと揺れる独特のノリで、指をこねってしてる(「YO!」とでも言いたげなあの指)場面とかですかね。「お金がない!」っつーのはだいたいそんなイメージを想起させるワードですわ。まあ、ボンビーメンは見てないが。
しかし死ね。どれも死ねって感じですわ。ドラマ的にお金がないのはいいけど、現実にお金がないのはいやだ。本当にいやだ。祐二も旬も分かってない。
というのも、3月から就活の関係でなぜか東京に住んでるんですが、今の僕はリアルにお金がない。少ないお金が減っていくのをハラハラしながら、「帰りたい、帰りたい」とかなんとか、全然効かないザオラルみたいに唱えながら、安アパートで日々を過ごしております。
正直一人暮らし初日に、駅弁とラーメンを食い歩いたのが効いている。あと、シャワーつきのアパートなのに、なぜか銭湯の回数券20枚(8600円)を買ったのが決め手だったかもしれん。ああディズニーシーとかも行った。そうだ、あのミッキー。確かあそこで3900円のディナーとかも食べたかもしれん。浮ついた気分の夢の国は、僕の金銭感覚すら前後不覚にさせちまうってえんだから驚きだ。いや……なんだ、原因はっきりしとる。何もお金が急に消えたとかやるせない事情じゃないんだ。消したのは他でもない僕。
就活資金を考えると、1日400円で飯がどれだけ食えるかという残金になってきておる。これが1週間で50円とかだったら、「こち亀のネタですか(笑)」とか笑い話でアハハなんだけど、いささかリアルな料金プランっすわー。参った。
ということで、生活がひどい。節約するために自炊をせざる負えない状況ですわ。よく一人暮らしすると外食ばっかで自炊しなくなるわー。とか言うのが20前後の男子のもっぱらの言い分ですが、何しろ400円じゃ学食の定食が一食食えるか食えないかっつーもんですから、ほんとその言い分に腹立ちを覚えざる負えない。しかし一番むかつくのは3900円のディナーを食ったあいつ……
でまあ、自炊。104円のパスタ250グラムと卵とベーコンとたまねぎと牛乳を使いまして、カルボナーラでございと洒落込んでみようと思ったのですが、共用キッチンを見ましたところなんと調味料が味塩コショーしかない。あと醤油。男子アパートなので妥当っちゃ妥当なんすけど、フライパンにひく油すらないとこを見ると、「これぞ男の料理ガハハハハ」と笑う気にもなれない。
鍋に油もひかず、焦げ焦げの玉ねぎとベーコンを炒めまして、ソースと絡めて、はいできた。ガン因子を多数含んでそうな黒い玉ねぎとベーコンとパスタを頬張るが味がない。当然だ。塩を入れてない。ベーコンの塩気ぐらいなもんだ。つーか一体全体このアパートの住人は何食べて生きてやがるんだ。塩とか普通、買うだろ。なくていい調味料なわけ、ないだろ。あ? 俺らは外食で済ましてっからー? あらら、同じ安アパートに住んでてもそっち側の存在とこっち側の存在とが混在? さいですか、アハハ。などととブツブツ不満をこきながら、やむなし。邪道だが味塩コショーを入れてみるかっつーことで、味塩コショーぶわさっとぶっかけてやったわけよ。
したら衝撃だったね。暖かい気持ちになれた。いや、何。味塩コショーで作るカルボちゃんな。悪くないのよ。オラびっくりしただ。何がうまいって味塩コショーがうまいんだ。ベーコンでも玉ねぎでもパスタでもなく、味塩コショーがうまいのなんのって。ノリで言えば、主食がカルボで、おかずが味塩コショーって感じ。調味料味塩コショーオンリーって、住人みんな馬鹿じゃないの? って軽蔑してた俺だけど、このとき確かにやつ等とつながった。住人同士、全然顔をあわさないんだけども、「味塩コショーはうまい」という認識でもって、確かに僕たちはつながったわけよ。味塩万歳。塩買わなくていいや。
で、味塩コショーというチートアイテムを手に入れた僕はいよいよもって一人暮らし全快満喫なわけよ。なんかコインランドリー代が高くて、洗濯を手洗いとかしちゃってる僕だけども、テンションも同じく物価並に高い水準を維持してる。
いやー、一人暮らしって本当にいいもんですね。アパートとかメチャメチャ汚くて、今にも手塚先生が、「いよお、やってる?」だなんて言いながら、玄関口から入ってきそうなトキワイズムなアパートだけど、なんだか湿って埃くさいこの部屋も、住んでるうちに愛着わいちゃうんよなー。そういえば奇しくも僕のアパートも豊島区。トキワ荘と同じですわ。なので町並みも、心なしか藤子A臭をはらんでいて、ほらそこの四つ角に今にも喪黒福造が出てきて「ドーン!」、ミギャー。いやされる町並みよ。
と、そんなこんなで楽しく一人暮らしをおくっとった僕ですが、先日。キッチンに火をかけようとしたら、そっから茶色いネズミが「ヂューーーーー!!」とか言いながら飛び出し、僕に襲い掛かって来たので名古屋に帰りたいです。今世界でいちばんネズミ嫌いなのはドラえもんではなく僕です。あとこの汚いアパートも凍狂も嫌いです。好きなものはお金です。お金ください。
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